【壮快 2015年11月号】記事掲載!


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ふくらはぎ刺激

内臓機能が回復!
ふくらはぎ刺激で糖尿病性腎症が改善し
透析を回避した人多数

静岡トレーニングクリニック院長 廣岡孝

透析寸前の患者さんの大きな助けとなっている

 私のクリニックには、糖尿病性腎症に悩む患者さんが、数多く訪れます。糖尿病性腎症は、糖尿病による重大な合併症の一つです。
 腎臓は主に、血液をろ過し、老廃物を尿として体外に排出する、浄水場のような役割を持ちます。血液中の糖濃度が高い状態が続くと、腎臓に負荷がかかり、機能が低下。さらに悪化して腎不全に陥ると、人工透析の必要が生じます。
 人工透析になると、週に3日ほど通院し、数時間かけて、血液から老廃物を除去しなければなりません。これは体力的にも、金銭的にも、大きな負担となります。
 ですから患者さんは、「透析だけはなんとか避けたい」と、必死の思いで、クリニックにいらっしゃいます。
 これは私たちのクリニックが提唱する「内臓トレーニング」という療法が、患者さんたちの、大きな助けとなっているからです。ここでは、透析寸前の状態から回復し、透析を避けられた改善例が、多くみられます。
 内臓トレーニング、といっても、内臓を直接鍛えるわけではありません。主にふくらはぎや足の裏などを刺激し、全身の血流を活性化。自律神経のバランスを整えます。内臓を総合的に健康に導く方法であるため、そう呼ばれているのです。
 人間の血液は、動脈を通って3割は頭部へ、7割は心臓から下へと送られます。心臓はポンプの役目を果たし、酸素と栄養素が、新鮮な血液にのって各細胞に運ばれます。
 しかし、下半身へ送られた血液を心臓に戻すためのポンプはありません。重力の影響も受けて、血液は、下半身に滞りがちになってしまいます。
 下半身に静脈血が滞ると、老廃物を回収する役割を持つ、リンパ液の流れも停滞します。すると、体内の各器官の機能が低下し、さまざまな病気を引き起こす要因となるのです。
 そこで重要になるのが、「第2の心臓」と呼ばれる、ふくらはぎの役割です。
 ふくらはぎを運動などにより刺激すると、ふくらはぎがポンプの役割をして、血液を心臓へ戻してくれます。静脈血の流れがよくなると、リンパの流れも改善します。
 一方、足の裏は、「内臓の鑑」と呼ばれるほど、反射区(全身の各臓器や器官につながる末梢神経)が集まっています。反射区を刺激すると、対応する臓器に、集中的に血液が送られることが、アメリカやドイツの研究で、明らかになっています。
 ふくらはぎや足の裏などを刺激することで、全身の血流とリンパの循環がスムーズになれば、疲弊した内臓の機能も、おのずと回復するのです。

自分の病気は自分で治す!

 私たちのクリニックでは、より治療効果を高めるために、専用の低周波電気治療器を用いています。
 もともと人間の体には、微弱な電流が流れています。この生体電流に似た低周波の電流を、人体に通電すると、筋肉が収縮し、血行がよくなります。この方法は、半世紀以上前から研究され、腰痛や肩こりなど、主に筋肉の痛みの治療に活用されてきました。その治療を受けた人のなかに、内臓機能が回復した例が多くみられることに着目したのが、内臓トレーニングの始まりです。
 とはいえ、治療器の使用は、ふくらはぎや足の裏などに効率的に刺激を与えるためにすぎません。肝心なのは、方法はともかく、きちんと結果を出すことだと、私は考えています。
 現実問題として、症状を改善させることができれば、それが患者さんの望むところであり、私の喜びでもあるのです。
 そうした考えから、私は、糖尿病性腎症などの患者さんに、自分でふくらはぎを動かしたり、マッサージしたりする方法も、指導しています。血流をよくして、症状を改善させるのに有効です。やり方は、上の枠内を参考にしてください。
 ウォーキングもお勧めですが、だらだら歩きは逆効果。試しに、つま先を上下するように足首を動かしてみてください。ふくらはぎの筋肉もいっしょに動くのがわかると思います。
 足首の関節を使うことを意識して歩くのが、ふくらはぎのポンプ機能を働かせ、血流をアップさせるコツなのです。
 腎臓病や、糖尿病などの生活習慣病を改善させるには、①血流をよくして、②自律神経のバランスを整え、③食事を見直すことが大切です。
 病気について勉強を怠らず、自分の病気は自分で治す気持ちで取り組んでいきましょう。


ふくらはぎ刺激で腎機能値が降下!
医師に「一生、透析の必要なし」といわれた

医学ジャーナリスト 速水千秋

70%以上の患者の腎機能値に効果

 体内の浄水場の役割を果たす腎臓には、糸球体という組織があります。これはまさに毛細血管の塊であり、フィルターとして機能します。
 糖尿病のため、血糖値が高い状態が続くと、動脈硬化が進行します。糸球体の毛細血管も、例外ではありません。細かな血管が壊れ、網の目が破れたり、詰まったりすると、老廃物をろ過できなくなります。これが、糖尿病の3大合併症の一つである、糖尿病性腎症です。
 糖尿病性腎症は、糖尿病と腎臓病の両面から治療が必要な、自己管理が難しい病気です。悪化すると、人工透析が必要になります。糖尿病性腎症のために透析を受けることになった人は、全透析患者のうち、実に43.8%を占めています(2013年現在)。
 人工透析を受ける側の負担は大きく、「それだけは避けたい」と願う患者さんが訪れるのが、廣岡孝先生(46ページ参照)が院長を務める、静岡トレーニングクリニックです。
 ここでは、内臓トレーニングという独自の方法を採用しています。低周波電気治療器を用い、ふくらはぎなどに通電刺激を与えることで、血行を促進。それにより、自律神経のバランスを整えます。
 食事療法やマッサージ法なども指導することで、糖尿病性腎症をはじめとする腎臓病や、神経性疾患などの治療に、大きな成果を上げているそうです。
 腎機能を測る目安の一つに、クレアチニン値があります。クレアチニンは、アミノ酸の一種が代謝されたあとにできた、老廃物です。腎機能が正常なうちは、尿に含まれる形で体外に排出されますが、腎臓の働きが悪くなると、血液に残ります。
 よって、血中のクレアチニン値が高ければ高いほど、腎機能が低下していると、判断できるのです。
 クレアチニンの基準値は、医療施設によって異なります。ちなみに、日本人間ドック学会における基準範囲は、男性で1.00mg/㎗以下、女性で0.70以下。たいてい、5.00mg/㎗前後になると、人工透析の導入が検討され始めるようです。
 「クレアチニン値は、一度上がると下がらない」といわれています。患者さんのなかには、主治医に「いずれ人工透析になるのは避けられない」といわれつつ、半信半疑で廣岡先生のもとを訪れる人もいるそうです。
 しかし、ふくらはぎなどを刺激する内臓トレーニングを行った、腎臓病(糖尿病性腎症も含む)の患者さん192人のクレアチニン値を調べたところ、実に45.3%が改善、25.5%が数値を維持しているとのこと(調査期間=2006年12月~2011年12月、内臓トレーニング協会調べ)。
 つまり、70%以上の患者さんに、腎機能を改善または維持する効果が現れているのです。

クレアチニン値が4.85→1.81ミリ!

 ここで、患者さんの例をご紹介しましょう。
 85歳の男性・Aさんは、長い間、糖尿病性腎症を患ってきました。大の美食家で、食事療法を拒んできた結果、2011年9月、クレアチニン値が4.85mg/㎗まで上がり、主治医から人工透析を勧められました。
 友人に紹介された内臓トレーニングを始めたのが、翌月。奥様の支えもあり、ふくらはぎ刺激に熱心に取り組みました。すると、1ヵ月後には、クレアチニン値が、一気に2.52mg/㎗まで下がったのです。
 しかし、過去1~2ヵ月の血糖状態を示す数値であるヘモグロビンA1cは、この時点で、10.1%もありました。(基準値は4.6~6.2%)。
 Aさんは、内臓トレーニングを根気良く続けました。すると、開始3ヵ月後には、クレアチニン値が2.01mg/㎗、ヘモグロビンA1cは7.1%まで下がったのです。
 この結果を見た主治医は、「これは奇跡。一生、透析の必要はないでしょう」と太鼓判を押してくれました。
 そして、開始して半年後、クレアチニン値は1.81mg/㎗まで降下。ヘモグロビンA1cは、なんと6.0%まで下がり、基準値内に収まるようになったのです。
 人工透析の危機から脱出し、糖尿病も克服したAさんは、4年近くたった現在も、クレアチニン値は2.00mg/㎗前後をキープ。ご夫婦で平穏に暮らしているそうです。
 次に、69歳の女性・Bさんの例です。Bさんは、約10年間、糖尿病性腎症を患い、網膜症で視力が低下、足も動かなくなっていました。
 2013年2月、クレアチニン値が4.16mg/㎗に上がり、主治医から人工透析を予告されました。心配した娘さんが、インターネットで情報を収集。翌月から、ふくらはぎなどを刺激する内臓トレーニングを開始したのです。
 すると、徐々にクレアチニン値が降下。9ヵ月後には、3.26mg/㎗まで下がり、主治医からは「しばらくは透析を気にしなくてもいいよ」という言葉をもらうことができました。
 Bさんは足のむくみや、うっ血がひどく、車いすでの生活を余儀なくされていました。それが今では、自力で歩くことも可能になりつつあるそうです。
 内臓トレーニングの根幹は、ふくらはぎなどへの刺激による血行促進が、大きな部分を占めています。糖尿病や、糖尿病性腎症などの予防・改善に対し、ふくらはぎがどれだけ重要な特効ポイントであるか、認識をあらたにすべきでしょう。

※腎臓の機能を評価するに当たっては、以前はクレアチニン値が主な基準でしたが、2008年に日本腎臓学会により、クレアチニン値に年齢や性別の要素を加味した「eGFR(推定糸球体濾過量)」という評価推算式が発表されました。以降は、eGFRを用いるのが主流となっています。静岡トレーニングクリニックでも、現在は、クレアチニン値だけでなく、eGFRも診断基準として採用しています。