「平穏死」の実現を訴える医師
40年余り手術に腕を振るってきた外科医が縁あって東京都世田谷区の特別養護老人ホーム「芦花ホーム」の常勤医になった。「初めて見た光景があまりに衝撃的でした」
入所者の平均年齢は90歳。9割が認知症。定員100人のうち16人がおなかに穴を開けた「胃ろう」や、鼻に差し込んだチューブから栄養と水分の補給を受けていた。寝たきりで話すこともできない。「これが人間らしい最期なのか」
寿命を受け入れ、平穏な死を迎える。その実現に向けて模索した4年間を「『平穏死』のすすめ」(講談社)という本にまとめた。「医療関係者から、誰かが言わねばならなかった、よく書いてくれたと感謝されます」
食べるのが難しくなったら、食べ物が気管に入って肺炎にならないよう、ゆっくりと食べさせ、量も控えるようにした。胃ろうなど「経管栄養」になった場合、カロリーや水分を少なめにした。経管栄養は食べ物が気管に入るのを防ぐ処置なのだが、それが実は肺炎の原因にもなるためだ。
「体の機能が衰えた高齢者は『おなかがいっぱい』と言うことができないんです。多すぎると吐き、吐いた物を吸い込んで肺炎になってしまう」
口の中の細菌を減らすための口腔(こうくう)ケアも徹底した。肺炎は減り、ホームで平穏な死を迎える人が増えた。
「単なる延命処置は平穏死につながらない。社会全体で本音で議論しなければならない」と訴える。74歳。広島県出身。
静岡新聞平成22年3月15日の記事より抜粋