診療報酬改定が直撃経営悪化の要因 「医師不足」も6割

診療報酬の改定や深刻な医師不足が病院経営の根本を揺るがしている実態が日本経済新聞社の「全国主要病院調査」で明らかになった。回答した病院の半数近くは昨年度決算が赤字。「ここ三年で経営状況が悪化した」との見方も約六割近くに達した。ただキャッシュフロー計算書を作成しているのは半数以下にとどまり、収益改善に向けて努力する余地も残っている。

二〇〇五―七年度の決算を聞いたところ、〇五年度は黒字の病院が五五・六%で半数を超えていたが、〇六年度は四七・三%に落ち込み、赤字(四九・九%)が上回った。〇七年度も赤字病院の方が多い状況が続いている。
 三年前と比べた経営状態に関しては、五六・七%が「厳しくなった」と回答。「好転した」(二八・九%)を大きく上回った。
 経営に大きなダメージを与えたのが〇六年四月の診療報酬の改定だ。医療の必要度が低い長期入院患者の基本料金引き下げや、外来再診料のカットなど、本体部分が一・三六%減額された。「経営悪化の理由」として八一・九%の病院が挙げ、個別の要因の中ではもっとも多かった。
 北海道の民間病院は「厚生労働省は民間病院を整理する方向で診療報酬を決めているように思える」として国の医療費抑制政策を批判した。
 実際、病院の淘汰は進みつつある。国立病院機構南横浜病院(横浜市)は十二月一日に閉鎖されることが決まった。〇四年の独立行政法人移行時から赤字続き。借入金圧縮などを柱にした経営再建プランをまとめたものの、「赤字を縮小できる具体策が打ち出されておらず、閉鎖せざるを得ないと判断した」と病院関係者は話す。
 診療報酬を巡っては、厚労省も周産期・小児医療など体制拡充が必要な分野に重点加算するなどの取り組みを進めている。しかし、「一部の診療報酬を廃止して予算を捻出(ねんしゅつ)する小手先の改定」(近畿地方の国立病院)、「高齢化が進む地方と、そうでない都市部の病院が、同一の診療報酬体系で運営するのは矛盾している」(九州地方の民間病院)など、抜本的な見直しを求める声は根強い。
 「医師の確保難」を経営悪化の要因に挙げた病院も六二・六%あった。医師を確保できないことで診療科の維持が困難になり、収入が減少するという「負の循環」に陥る病院が目立っている。
 銚子市立総合病院(千葉県銚子市)は今月七日、九月末で病院を一時休止すると発表した。〇五年度に三十人を超えていた常勤医師は今年度は三分の一に減少。診療科の縮小や入院受け入れの断念などで収入が大幅に落ち込む事態が避けられず、市としてもこれ以上の財政支援は困難と判断した。
 同市行政改革推進室は「大学からの医師派遣が難しくなっており、スタッフを確保している医療法人などに運営を委託する公設民営方式なども念頭に、来春にも診療を再開したい」と話す。
 「勤務医の給与を倍ぐらいにしてあげたいのだが、経営努力をしても収支はとんとん」(東海地方の民間病院)。「公的病院では、総務省から公務員の減員を求められる半面、厚労省は増員しないと報酬を減らす仕組みを導入。自由裁量がきかない」(首都圏の国公立病院)
 自由回答欄に寄せられた声からは、経営難からスタッフの待遇向上に取り組む余裕がなく、苦悩する病院の姿もうかがえた。


疾患別の治療原価計算
6割超「全くしてない」
収益改善、努力の余地も

 病院経営を取り巻く環境が厳しくなる中、九割近い病院は外来や入院患者の診療収入に目標値を設けていた。コスト削減のため、薬品や備品の在庫圧縮に取り組む病院も八四・六%あった。
 開設主体別では、大学病院が院外処方の促進などに力を入れているのが目立つ。民間病院は検査、国公立病院は医療事務の部門で、アウトソーシングに活路を見いだそうとする傾向が強い。
 一方で、地域の医療機関と高額の医療機器を共有したり、同一診療圏でのシェアについて目標値を定めたりしているのは、ともに二割程度。病院単独での取り組みは進んでいるが、地域の医療機関が連携し、経営の効率化を図る枠組みづくりは遅れている。
 すべての疾患について原価計算をしているのは四・八%。六四・二%は「全く計算していない」と回答した。
 財務諸表による経営チェックは九三・六%が実施していたが、賃借対照表と損益計算書に加え、キャッシュフロー計算書も整えているのは四八・四%。二〇〇四年の前回調査に比べ、十七・五ポイント増加したものの、いまだ半数に満たない水準だ。キャッシュフロー計算書は資金繰りの実態把握に役立ち、上場企業では00年三月期から作成が義務付けられている。
 作成した財務諸表を監査法人などがチェックしているのは七二・七%。金融機関などの支援を求めるには、財務の透明性をより高める必要がありそうだ。
 病院経営を圧迫する未収金は九三・四%が把握。国立病院機構京都医療センター(京都市)は今年度から、未収金の回収を弁護士に委託するなど対策に乗り出している。


地域がいったいで考えるべきとき
私はこう読む

 保険点数によって「定価」が決められ、企業のように値上げや値下げができない医療会計は、診療報酬が下がれば相対的にコストが上昇し、たちまち収益悪化につながる。国の医療費抑制方針が続く限り、経営環境は厳しい状況が続くだろう。
 今回の調査では、経営悪化の理由として、診療報酬引き下げに加え、「投資負担の増大」と「医師や看護師不足」が多く指摘されている。
 投資負担を抑えるには、事務部門の専門性強化が重要だ。医師や看護師などの専門家集団である病院では、医療現場のスタッフの意見が最優先されやすい。そこに経営的視点からのチェックを加え、投資案件の優先順位を決め、人件費率を抑制しながら人材を確保するためには、現場スタッフを納得させる事務部門の専門的な蓄積が必要になってくる。
 医師や看護師の不足は多くの病院に共通の問題となってくる。個々の病院は必死にスタッフの確保を進めているが、全国的にみて、医師や看護師は魅力があり働きやすい病院に集中する傾向が顕著だ。地域によっては、同じ地域で似た機能を持った自治体と民間の病院がスタッフの確保を競い、地域全体の医療が疲弊している例もある。
 医師の過酷な労働などが問題視されている今、国や自治体、民間など開設主体の違う医療機関が、医師や看護師のあり方を地域で一体的に考えるべき時期であると思う。
208.7.27 日本経済新聞