外来管理加算「5分ルール」を考える
本年度の診療報酬改定において,外来管理加算にいわゆる「5分ルール」という臨床の現場を混乱させる条件が加わり,議論となっている。「3分診療」という表現が粗雑な診療をイメージしてマスコミや一般で使われてきたが,時間の目安だけで「5分以上かけなければ十分な診療とはみなさない」とする新たなルールは,医療の現場を無視したものと言わざるをえない。
日常診療において適切な病歴聴取,身体診察が求められることは今までと何ら変わりはないが,あえて「5分以上」という時間的規制を設けることにどのような意味,利点があるのだろうか?「1時間に最大12人しか診られない」から「1日当たりの受診患者数が限られ,医療費抑制につながる」との意見もあり,医療現場の無視もはなはだしい。診察室内で患者と5分以上対面することが外来管理加算の必須事項となれば,診察が滞り,今まで以上に患者を待たせる事態になることは明らかである。
また神経内科領域では「神経学的検査料」が新設された。神経診察の現場と解離している「専門医による神経学的診察の技術料」の算定基準についても,臨床の現場から意見させていただきたい。
神経診療の現場から
神経学的診察の多くが経験によるパターン認識であり,神経内科医は患者をひと目見た段階で経験的に「何かおかしいぞ!」と直感を働かせる。患者が診察室に入ってくる瞬間に,表情,姿勢,四肢の状態,肢位に異常があるかどうかを観察する。神経学的異常は容易に観察できることもあるが,短時間しか出現しない場合や,診察中に出現しないこともあり,患者自身が自覚していないこともあるので,患者が診察室に入ってきた瞬間から最後に出て行くまで常に観察を続けている。特有な異常所見を観察できれば,それだけでだいたいの鑑別疾患の見当をつけることが可能である。診察室に入ってきた瞬間にかかりつけの患者であればおおよその状態把握が可能であり,初診の患者でも一瞬で診断がつくこともある。
神経内科外来においてはかなり多数を占めるパーキンソン病患者を例に挙げてみたい。いつも診察している患者であれば,診察室に入る一瞬でパーキンソン病についてのコントロール状態と調子をほぼ判断できる。Wearing−off現象やon−off現象のある患者ではスイッチが入ったり切れたりするように運動機能が日内変動するが,かかりつけ患者であればスイッチが入った状態か,切れた状態かも診察室に入る一瞬で分かる。
顔貌,姿勢,歩き方,安静時振戦の観察ができればパーキンソン病の外来患者の神経学的診察としてはほぼ十分であり,ドアから入室後数秒で判定できる。経過の問診をしながら話し方を観察し,同時に四肢の筋固縮をみるのに1分とかからない。神経内科医は,腱反射などを含めて神経学的外来診察の多くを,問診をしながら患者が無意識の状態で行っている。それには熟練を要することは言うまでもないが,この要領,技術が「5分ルール」,「神経学的検査料」ではまったく反映されていない。
一方で,経過と投薬の確認や神経学的所見の記載には時間がかかるので,診察は5分以内でもその前後の時間に診察以上の時間がかかることは日常茶飯事である。せっかく神経学的所見をとってもカルテに記載する時間がないと,「神経学的所見に著変なし」と1行の記載で済ませてしまうことの方が悔しい。最近は電子カルテやオーダリングシステムが導入されている病院が多いが,患者が診察室に入って来るとき,あるいは出て行くときにコンピュータ画面に向かって記録を打ち込んでいては貴重な所見を見落としてしまうこともある。「5分ルール」では患者が診察室から出た後にカルテを記載しても診察時間に加えられないのであるから,やむを得ず診察中にカルテを記載する必要があり,なおさら見落としが出る可能性がある。
岩崎 靖(小山田記念温泉病院 神経内科)
週刊医学界新聞 - 2008年7月13日