脳鍛え認知症防げ
体験を丸ごと忘れてしまう」「きょうの日付や、自分のいる場所が分からない」―。認知症はそんな症状がじわじわと進行し、社会生活が送れなくなってしまう病気だ。現状では病気の進行を止めるすべはなく、絶対に認知症にならないという確実な予防法もない。ところが最近、認知症は生活習慣と深い関係があるらしいことが分ってきた。若いときから運動や食べ物で脳を守り、脳を積極的に使うことで、脳に「底力」をつける。認知症に負けない脳をつくる方法の最前線を探った。
効果的な有酸素運動
どうすれば認知症になりにくくしたり、発症を遅らせたりすることができるのだろうか。老年学が専門の矢冨直美・東京都老人総合研究所主任研究員に、「認知症に強い脳のつくり方」を聞いた。
矢冨さんによると、認知症予防に有効と考えられている方法には、①運動
②食べ物
③脳を鍛える生活―の三つがある。
まず運動では「有酸素運動」が有効だと考えられている。歩くとか泳ぐとか長時間続けられる運動のことで、酸素を取り込んで脂肪を燃やす。
認知症の大半を占めるアルツハイマー病は、脳にベータアミロイドというタンパク質がたまることで起こるという説が有力視されている。このタンパク質を分解する酵素は有酸素運動で増えることが動物実験で明らかになっている。運動は脳の血流を良くするので、認知症を防ぐ効果が期待できる。
カナダで行われた研究では、有酸素運動をする人は運動をしない人に比べ、アルツハイマー病になる危険度が半分だった。「やや速足の歩きを一日三十分、週五日程度続けるのがお勧めです」
認知症予防に効果的な食べ物には二種類ある。
一つは「抗酸化物質」であるビタミンCやビタミンE、ベータカロテンを多く含む野菜と果物。もう一つはドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)など不飽和脂肪酸を含む、イワシやサバなど「青魚」だ。どちらもベータアミロイドをできにくくする作用がある。
「青魚は特に効果が大きい。一日一回食べる人と、ほとんど食べない人では発症率が五倍も違うという研究もあります」
運動と食べ物の予防法はベータアミロイドを減らすというメカニズムを持つ。それとは別のメカニズムの予防法として、脳を鍛える方法がある。
「脳はすごく柔軟な臓器で、使えば使うほど変化する。脳を鍛え余力を蓄えておき、病気に対抗しようというわけです」
予防のために鍛えるべき脳の機能は、体験を記憶して思い出す機能と、複数の作業を同時に行うのに必要な「注意分配力」、それに「計画力」だ。
計画力は、計画を立て、それを実行し、その間の自分の行動を管理する働きのこと。鍛えるには、旅行や新しいレシピの料理などがいいという。
矢冨さんが二〇〇四年に東京都町田市で約千二百人を調べたところ、旅行や料理、囲碁・将棋などを頻繁にする人は認知機能に関する能力が低下しないことが分かった。
「ただし、ライフスタイルを変えるのは難しい。励ましてくれる仲間がいると続けられます」
認知症に強い脳をつくるには
○有酸素運動
ウォーキング、水泳
○効果的な食べ物
抗酸化作用
ビタミンCが多い・・・アセロラ、レモン、イチゴ、レバー、ピーマン
ビタミンEが多い・・・アボガド、カボチャ、玄米、サツマイモ、ニラ
ベータカロテンが多い・・・青ネギ、アスパラガス、オクラ、ニンジン
魚
特に青魚…イワシ、サバ、サンマ、マグロ、ハマチなど
お酒なら
赤ワイン(ただし、ほどほどに)
頭を使う生活
○計画力を鍛える…新しいことを段取りを考えて実行する
・旅行、新しい料理を考える、パソコン、マージャン、囲碁、将棋
○記憶力を鍛える…体験を記憶して思い出す
・家計簿をつけるときレシートを見ないで思い出してみる
・きのう起きたことをきょう日記に書いてみる
○注意分配力を鍛える・・・二つ以上のことに注意を配り、同時に進める
・煮物や焼き物など何品かを同時に料理する
・相手の表情や気持ちに注意を向けながら会話する
<都老人総合研究主任研究員 矢冨直美>
2008年6月25日 静岡新聞