難病カルテ:患者たちのいま/11 パーキンソン病 /佐賀
毎日新聞 2011年9月4日
◇前向きに生活楽しむ 「今日も無事」一日一日を満喫◇今年6月に開かれたイベントで、
佐賀市の西村恵美子さん(65)はホール壇上にある椅子に座った。
本を開き、作家・小池真理子さんの短編小説を読み始めた。
やわらかく響く声に観客は聴き入る。終わると拍手が広がり、西村さんはホッとしたように笑顔を見せた。
約15年前、「重たい物を乗せているような」ひどい肩こりに苦しんだ。
40代だったが、歩き方や行動を見た親戚が表現したのは「おばあさんみたい」。
血管障害と思い通院したが、告げられたのは「パーキンソン病の初期症状」だった。
頭に浮かんだのは「私も義母のようになるのかな」という思いだ。
同じ病だった。義母はすり足で歩くようになり、体が震え、じきに寝たきりになった。
認知症を発症したこともあり、夜も1時間おきに世話をした。365日、24時間態勢だった。
約7年の介護の末、誤えん性肺炎で亡くなった。
「終末」を実体験しているだけに、失望感はぬぐえなかった。
でもその直後、ふと「じゃあ私は、病気に負けない、パーキンソン病のスターになろう」と思った。
母子家庭で育った。母は長崎県の旅館に住み込みで働いていたため、5歳から佐賀県内の祖母の家で暮らした。
会えるのは、盆、正月、夏休み。経済的にも厳しく「いつもおなかが減っていた」。
周囲から心無い言葉を浴びせられたこともあるが、「まあ大丈夫、何とかなる。このくらいでは負けないよ」と、奮い立たせてきた。
「楽天家」と自己分析する。病気が分かっていても、夫と各地を旅行し、登山して回ったりした。
01年には大分県の久住山(標高1787メートル)を踏破した。
幼いころから好きだった読書や、30代から挑戦していた童話・小説の執筆にも没頭。「声を出す練習に」と、視覚障害者のため本を朗読する音訳活動にも携わっている。
前向きに趣味、生活を楽しむ姿が評価され、04年には製薬会社が主催する企画で、表彰されたこともある。言葉通り「スター」になった。
生きがいがある。孫の成長、家事を支えてくれる夫。家族に囲まれ「今日も無事だったな」と思い、一日一日を満喫する。
今も小説は書き続けている。リビングで、次男が贈ってくれた最新のパソコンのキーボードをゆっくり、指でたたく。「まだまだ書きたいことがあるんですよ」。画面に映る文章をじっと見つめ、笑顔になった。【蒔田備憲】
……………………………………………………………………………………
◇パーキンソン病
脳内でドーパミンという神経伝達物質を作る神経細胞が減ることで、体の震えが出たり動作が緩慢になったりする。なぜ細胞が減るのかは不明。投薬で症状は改善されるが、根本的な治療は難しい。日本の発症率は人口10万人当たり100~150人とされ、50~65歳の発症率が高い。医療費助成の対象になる特定疾患に指定されており、09年度に助成を受けているのは全国に10万4400人(関連疾患含む)。