現代人の疲労 慢性疲労症候群
30代の働き盛りに多い発症
診断の線引き難しく
原因不明の激しい疲労感が半年以上続く慢性疲労症候群。周囲が病気と気づかないことも多く、国内の患者数は少なくとも数十万人と推定される。一九九〇年に日本で始めて症例を報告した私立堺病院(堺市)の木谷照夫名誉院長(大阪大学名誉教授)は「三十代の働き盛りで発症する人が多い。疑わしいときには早めの受診を」と訴える。
――周囲から病気と認めてもらえず、悩む人が多いですね。
「普通に生活していた人が風邪などを機に激しい全身疲労を感じ、社会生活を送れなくなる病気です。微熱や頭痛、筋肉痛などの症状がありますが、元気そうに見えて病人に思えない。周囲も病気とは気づかず、『怠けているだけではないか』と誤解しがちです」
「しかし、画像診断で脳の一部に萎縮や機能異常が見つかるなど、病気であることははっきりしている。原因はウイルス感染や自己免疫の異常、ストレスなど様々に指摘され、恐らく一つではない。一方、疲労感の持続など共通する症状が多いので、症候群と呼ばれます。二十代後半から四十代、特に三十代の働き盛りに発症しやすく、女性は男性より発症率が一・五−三倍高いと報告されています」
――国内の患者は約三十万人、潜在患者は二百万人との推計もあります。
「九九年、私たち厚生省(当時)研究班が住民約四千人を調べたところ、三六%が半年以上続く慢性的な疲労感を訴え、日常生活に支障がある人も一六%に達しました。予想よりも高い数字で驚きました」
「慢性疲労があるからといって、直ちに慢性疲労症候群とは断定できません。貧血や糖尿病、甲状腺の病気など慢性疾患があると疲労を伴うことが多い。過労が続くなど原因が明確な場合も当てはまりません」
「国際的な診断基準では欧米人の発症率は人口当たり〇・二−〇・三%とされ、日本も同程度(約二十五万―三十五万人)と考えられます。ただ、診断基準では単純に線引きできず、潜在患者はずっと多いはずです」
――基準に限界があるのですか。
「血液検査やレントゲンなどで診断できる病気と違い、この症候群は該当する症状が一定数以上あるかどうかで判断します。しかし、一、二項目足りない疑診(疑い例)の扱いが難しい。慢性疲労は軽い症状から連続的に進むので、診断基準を満たしていないから『病気でない』とは言い切れないのです」
「この病気の特徴の一つは、きつい仕事やストレスなど強い負荷がかかると急に悪化することです。疑い例の人は元気そうに見えても、負荷がかかるとすぐに症状が重くなります。働き盛りで発症が多いのも、結婚や昇進、転居など人生上の出来事が重なることが関係しているのかもしれない。疑い例でも決して放置せず、早めに治療を受けることが大事です」
――疑われる人はどうしたらよいですか。
「通常の疲労は『体を休ませなさい』という重要な警報なので、まず休養するのが大切で、薬などで無理に抑え込むのはよくない。しかし、慢性疲労症候群は明らかな病気で、薬などによる治療が必要になります。大学病院の疲労外来など、この病気をよく理解した医師のいる医療機関で治療するよう勧めます」
(聞き手は編集委員 久保田啓介)
学会が診断指針
「特発性」も治療
慢性疲労症候群は一九三〇年代以降、欧米などで集団発生か相次ぎ、長く「謎の病気」と考えられてきた。木谷氏は九〇年に国内初の症例を報告。厚生省(当時)の研究班長として診断基準づくりに携わり、疑い例でも治療を受けられるよう訴えてきた。
日本疲労学会は今年六月、かかりつけ医師らがこの病気を診られるよう診断基準をベースに「診断指針」を発表。疑い例を「特発性慢性疲労」とし、治療対象にするよう求めている。
日本経済新聞より