動脈硬化と心臓病、メタボの関係
財団法人静岡健康管理センター(遠山和成所長)の公開講座「聞いてなるほど!メタポリックシンドローム」(同センター、静岡新聞社・静岡放送主催)の第4回講座が9月1日、静岡市葵区のしずぎんホールユーフォニアで開かれた。静岡市立病院診療部長兼循環器科科長の小野寺知哉氏と健康運動指導士として全国各地で指導を行っている黒田恵美子さんがそれぞれ、講演を行った。小野寺氏の講演内容を紹介する。
心臓を取り巻く冠状動脈の仕組み
体の細胞は、血液から、酸素や栄養をもらって生きています。心臓は、一日10万回も収縮と拡張を繰り返して体に血液を送り出しているポンプのような役割があります。心臓の筋肉も血液を送らないと生きていけないため、心臓出口の大動脈から、“孫悟空”の冠のように、心臓の筋肉に血液を送る動脈が心臓を取り巻いて出ています。これを冠状動脈といいます。
狭心症と心筋梗塞(こうそく)は、冠状動脈が動脈硬化によって狭くなり、心臓の筋肉に行く血液が足りなくなる病気です。狭心症は心臓の筋肉がまだ生きていて、血液が不足している状態。心筋梗塞は、血管が詰まってしまい、血液が行かなくなって心臓の筋肉が死んで機能しなくなる状態を指します。
心筋梗塞を招く動脈硬化の危険因子
これらの病気には、冠状動脈の血流を良<することが重要です。冠状動脈の狭い部分を、先端に風船の付いたカテーテル(管)やステント(金網のチューブ)で広げるカテーテル治療や冠状動脈の狭い部分の先に血管をつないで、血液を流す道をつくるバイパス手術などがその治療法です。現在の治療では、狭心症の患者の場合、血液が不足している部分を解除できれば、その後は年に1%の死亡率、急性心筋梗塞の患者の場合は、緊急にカテーテル治療を行えば、死亡率は5%にまで減らすことができます。ただ、一番大切なのは動脈硬化をできる限り予防していくことなのです。
動脈硬化は完全に予防できるのでしょうか。今のところ、完全に予防することは難しいのが現状です。しかし、動脈硬化の危険因子(リスクファクター)をコントロールして減らすことはできます。動脈血管中の壁に傷が付きやすくなる危険因子を減らす努力をすればいいわけです。動脈硬化の危険因子は、▽たばこ▽血圧が高い▽コレステロールが高い▽糖尿病▽肥満です。コレステロールは、血管の中で変性するなどして、動脈の壁に傷をつけてしまいます。糖尿病も同様に、糖が高いと血管に傷が付きやすくなります。このほか、ホルモンの関係で女性より、男性のほうが起こりやすいことが分かっています。女性は月経のある間は、動脈硬化はあまり起こりません。閉経した後から、動脈硬化が始まるので、男性より10年くらい有利です。
これらの条件が重なるほど、狭心症や心筋梗塞が多くなります。危険因子を3つ以上持っている人は、一つもない人の30倍も心臓病などにかかりやすくなります。ある調査では、狭心症は日本人の65歳以上では1000人中、50人くらいはいるだろうといわれています。この危険因子を減らす努力が今、求められています。特にたばこは、やめればリスクが半分に減ります。たばこをやめて数年たつと、吸ってない人と血管の動脈硬化の進行はほぼ同じに戻るといわれています。ですから、たばこはいつやめても遅すぎるということはありません。
メタボは心臓病の危険因子のかたまり
また、最近、メタポリックシンドロームとして、互いに危険因子が関連していることも分かってきました。おなかの中の脂肪が多い人は血圧が高く糖尿病になりやすく、血中のコレステロールや中性脂肪が多くなりやすいからです。
メタポリックシンドロームのメタポリックは日本語で直訳すると「代謝」です。代謝というのは、体の外から入ってきたものに変化を起こさせてエネルギーなどをつくったりすることを意味します。つまり、体の中に入ってくるカロリーが多すぎてお腹に溜まると、内臓肥満を起こし、動脈硬化の危険因子を招き寄せる。そして、ついには動脈硬化が進んでいくという仕組みを表しています。
メタポリックシンドロームとして集まってくる危険因子は▽肥満▽血圧が高い▽血糖が高い▽コレステロールが高い−。狭心症、心筋梗塞の危険因子となっています。ということは、これらの因子を持っていればいるほど狭心症、心筋梗塞にもなりやすいというわけです。
実際にメタポリックシンドロームの危険因子があるとどれくらい狭心症や心筋梗塞になりやすいのかというと、危険因子を一つも持ってない人に比べ、危険因子が1増えれば5倍、2増えれば10倍とリスクが高まることが分かっています。ですから、メタポリックシンドロームを何とかしなければならないのです。
生活習慣改善で動脈硬化予防
平成17年から、内臓肥満に加えて危険因子が2つ以上ある人をメタポリックシンドロームと診断し、動脈硬化を起こさないように社会的に生活習慣の改善に取り組むことになりました。また、来年4月から、各自治体で40歳以上の人を対象に生活習慣病の検診、指導を行う特定健診制度も始まります。今後、生活習慣を見直す取り組みが精力的に行われていくと思います。ですから、皆さんも食事量をコントロールし、適度な運動を心がけて内臓脂肪を減らす努力をしてもらいたいと思います。食事制限も運動も、一日できなくなると、面倒になってしまいます。一日休んでしまっても自分を責めることなく、また明日からがんばろうという気持ちが大切だと思います。
症状現れにくいメタボ、どう防ぐ
メタポリックシンドロームは、かかっても痛くなるなどの症状が現れにくいのが特徴です。少しおなかが出て格好悪いかなと思うくらいです。男の人だと恰幅(かっぷく)がいいと思われて危険視されないこともよくあります。しかし、一端、動脈硬化を起こすと心筋梗塞や脳梗塞、腎不全、糖尿病の合併症などで苦しむ結果にもなりかねません。
ですから定期的に腹囲を測るなどして自己管理を徹底して健康的な生活を送っていただきたいと思います。
遠山所長の一口メモ
遠山和成(とうやま・かずしげ)氏 1941年生まれ.県立静岡高、京都大医学部卒。静岡県立総合病院の外科医長、副院長を歴任し、2006年より現職。
血が行かなくて、心筋が死んじゃったが心筋梗塞。原因は動脈硬化と小野寺先生は語りました。動脈硬化の完全予防は不可能ですが、危険因子である肥満、高血圧症、糖尿病、高脂血症や喫煙を減らし、動脈硬化を遅らせることは可能とのこと。メタボ予防は、腹囲を自分で測り、満腹、間食は禁。運動習慣を持ち、3階くらいの階段は楽に歩ける体力をつける。メタボは痛くないので危険性を充分知り、動脈硬化を遅らせることが大切。心身ともに若々しさを可能な限り保ってほしいが結論。合点承知。
小野寺知哉(おのでら・ともや)氏静岡市立病院 診療部長兼循環器科料長
1979年、京都大学卒業後、80年から浜松労災病院(浜松市)に内科医として勤務。83年に京都大学大学院へ進み、88年から米国シンシナチ大学で研究。1990年より静岡市立病院循環器科に勤務し、狭心症や心筋梗塞のカテーテル治療、心不全治療を専門
静岡新聞2007.9.1掲載