糖尿病腎症(Diabetic Nephropathy)とは?
? 糖尿病腎症は、糖尿病の細小血管合併症(腎症、網膜症、末梢神経障害)の1つです。
? 1998年以降、血液透析導入の原因疾患の第1位(約4割)となっており、毎年約1万人が新規に透析療法を導入されています。
? 治療の中心は、血糖・血圧コントロールと食事療法になります。
疫学
糖尿病患者(その予備群を含めると約1500万人くらい)の急激な増加とともに、わが国における糖尿病腎症の患者数は急激に増加してきています。
糖尿病の罹患後10〜15年以上経過してから発症することが多いと報告されています。
糖尿病患者全体の30%〜40%(約400〜500万人)が本症に罹患していると考えられています。
新規透析導入患者の原疾患の第1位となっています。
病態と成因
【病態】
糖尿病腎症は慢性的な高血糖により発症し、糸球体硬化の進行とともに腎不全に至る疾患です。
【成因】
遺伝素因
血糖・血圧の厳格なコントロールにもかかわらず、30%〜40%に腎症の進展が認められます。
また、家族内に集積が認められることがあります。
細胞内代謝異常
解糖系以外のポリオール経路、ジアシルグリセロール(DAG)産生経路、ヘキソサミン合成経路で処理されるグルコースが増加し、細胞内ソルビトールの蓄積やDAGの増加がおこります。
また、DAGはプロテインキナーゼC(PKC)に直接結合し、活性化させた後にTGF-βの産生を亢進させ糸球体硬化へと導きます。
糖化(グリケーション)
糖尿病状態では、糖と蛋白質のアミノ基の非酵素的反応により蛋白質の糖化が進行し、終末糖化産物(AGE)が産生されます。
また、AGE化された糸球体内の蛋白質は分解されにくいため、細胞外基質の増加をきたします。
さらに、AGE化された蛋白質は、TGF-βをはじめとするサイトカインや増殖因子の産生を促し、糖尿病腎症の発症・進展に関与すると考えられています。
血行動態異常
糖尿病の初期においては糸球体輸入・輸出細動脈の拡張がともにみられますが、輸出細動脈の拡張がさほど強くないために糸球体高血圧を招き、腎糸球体内皮細胞の透過性を亢進させアルブミン尿を生じさせます。
症状
初期には無症状である場合がほとんどです。
しかし、進行するとネフローゼ症候群となり、浮腫(むくみ)が出現します。
さらに、腎不全になると慢性腎炎や高血圧等が原因の腎不全と同様に尿毒症症状(食欲不振、全身倦怠感等)が出現します。また、その出現時期は慢性腎炎や高血圧等が原因の腎不全と比較し、その出現時期が早いことが特徴とされています。
尿検査所見
微量アルブミン尿が確認できれば早期糖尿病腎症と臨床的に診断されます。
顕性腎症では持続性蛋白尿が認められます。原則として高度な血尿は認められません。
腎機能低下が出現する頃には、ネフローゼ症候群となり浮腫が出現します。
血液検査
糖尿病検査 血糖↑、ヘモグロビンA1C(HbA1C) ↑、グリコアルブミン↑
腎機能検査 血清シスタチンC↑、血清クレアチニン↑、血清尿素窒素↑、血清尿酸↑
電解質検査 カリウム↑、リン↑、カルシウム↓
貧血検査 赤血球↓、ヘモグロビン↓、ヘマトクリット↓
組織学的検査(腎生検)
糖尿病腎症以外の腎疾患の合併が疑われる場合には、腎生検を行い確定診断がなされます。
治療
血糖・血圧コントロールと低蛋白食療法の3本柱で行われます。厚生省糖尿病調査研究班により作成された糖尿病腎症病期分類(表1)にもとづき、病期別に治療が行われます。
血糖コントロール
糖尿病腎症病期分類の第3期-Aまでは、特に厳格な血糖コントロールが腎症の進展抑制に効果的です。具体的には、空腹時血糖120mg/dL以下、食後2時間後血糖180mg/dL以下、HbA1c 6.5%以下にコントロールすることが目標となります。血糖降下薬の種類に関しては、第3期-Aまでは、経口薬(SU薬、αグコシダーゼ阻害薬、グリニド系薬)でコントロール可能ならそれでもかまいませんが、第3期-B以降は、インスリン療法に切り替えることが勧められます。ただし、第4期以降は、インスリン排泄の低下のため低血糖の出現には十分注意する必要があります。
血圧コントロール
血圧は糖尿病腎症の全病期にわたり厳格な血圧コントロールが腎症の進展抑制に効果的です。具体的には、130/80 mmHg以下が目標となります。さらに、蛋白尿が1g/日以上の場合では、さらに低い125/75 mmHg未満が目標となります。降圧薬の種類に関しては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII(AT1)受容体阻害薬(ARB)が第1選択薬となります。また、α1遮断薬、Ca拮抗薬等も血圧のコントロールが不良なときは併用されます。
低蛋白食療法
糖尿病腎症における食事療法は、他の慢性糸球体腎炎の場合と同様に低蛋白食になります。日本腎臓学会から刊行された糖尿病腎症の食事療法ガイドライン(表2)によると、病期分類の第2期までは蛋白制限よりもむしろ糖尿病食を基本とし、第3期以降は蛋白制限を中心とします。